ホ−ム > Kappo 仙台闊歩

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
    昨年の震災後、仕事で幾度となく訪れた四国。四国といえば弘法大師空海生誕の地として有名な善通寺がある。二度三度とこの善通寺を参拝するうちに、私は他の寺院にはない雰囲気に惹かれ、「お大師様の寺」として庶民の信仰を集める京都の東寺まで足を延ばしてみようと思い立った。
  暑さ厳しい9月の京都。東寺の入り口に復興の願いを込めて描かれた阿吽の双龍のポスターが貼られていた。「秋季特別公開  観瀾斎 作品展」。翌週からの開催を知らせるものだった。「残念だけど見られない…」。そんな思いを抱いて、ほの暗いお堂に足を踏み入れると、突然、巨大な二匹の龍が私の目の前に飛び込んできた。今にも空へと舞い上がりそうな力強さと勢い。「 阿吽の双龍」だった。自然と涙がこみあげてきた。
  震災から半年、きっと知らず知らずためこんできたものがあったのだと思う。二匹の龍はあっという問に、心に渦巻くさまざまな思いを飲み込んだ。そして、しばらく呆然と立ち尽くしていた私の前に、双龍の生みの親である観瀾斎先生が現れた。多忙なスケジュールにより、1週問早く搬入に訪れるという偶然がもたらした出会いだった。
  震災直後、「何かせないかん!」という強い思いに突き動かされ、先生は小学校の体育館に16枚の和紙を広げ、下絵もなしに一気にこの双龍を描き上げたのだそうだ。
  版画は絵を描いて版木を彫り、彫った後、再び練り墨で刷るという作業を経て、やっと完成する。全ての作業を終えたときに初めて、成功か失敗かわかるのだと話してくださった。判断基準は、完成した絵が先生自身の心に響くかどうか。自分の心に響かないものは、人の心を揺さぶることはできない。無心で描き刷り上げた龍には、魂が込められていた。
  自然と阿吽になったという二匹の龍。「阿吽」は人の一生をさす。生と死を象徴する二匹の龍が一体となり、震災の犠牲者への哀悼と、残されたものたちの復興への力を表していた。
  先生はこの作品を、福島か宮城へ寄贈したいと考えていると話してくださった。私はただただこの龍を、東北に生きる多くの人に見て欲しいという気持ちから、微力だがそのお手伝いをさせて欲しいと申し出た。先生は、「これもお大師様が結んでくださったご縁」と笑顔で快諾してくださった。 
   仙台へ戻った私は、早速、作品展のチラシと写真、先生のプロフィールを手にあらゆる知り合いを訪ねて回った。だが2m×4mの大作ということもあり、寄贈先はなかなか見つからず、あっという間に年が明けた。先生は電話で、「決まるときにはとんとんとんと、話が進んでゆくものです。焦らんでいいですからね」と、躍起になっていた私に優しい言葉をかけてくださった。
  それからほどなくして、二本松の市長から人を介して連絡があった。「復興の願いを込めて描かれた双龍を、二本松はもちろん、津波と原発の問題により、故郷の浪江を離れて二本松で暮らす多くの方々に見て欲しい」と。
  この思いも寄らぬ申し出に、先生も心から喜んでくださった。そして双龍を運送会社に頼んで送るのは忍びないと、わざわざアトリエのある兵庫からフェリーと車を乗り継いで、16時間かけて二本松にやってきたのだった。
  「二匹の龍をまるで嫁に出す気持ちです」と言った先生の言葉に、思わず笑みがこぼれる。旧暦で願望成就の日とされる2月23日。私たちの目の前で、二本松市役所の壁に「阿吽の双龍」が飾られた。あっという間に人だかりができた。東寺で8万人の祈りが込められた双龍を、みな無言で見上げていた。
  先生の言葉が胸に残る。
  「人生には、悲しいこと、辛いこと、嬉しいことがある。でもどちらかといえば辛いこと、苦しいことのほうが多いかもしれんね。これでもか、これでもかと試練が来る。その繰り返し。すべては天から与えられた教え。その教えを受け入れ、少しずつでも努力してゆけば、必ず希望が見えてくるかと思うんです。私たち人間は神仏に生かされ導かれている。この双龍も縁に導かれ、こうして然るべき場所に舞い降りることができました。ありがとう」
                                                                         記事 三浦奈々依  「Kappo 5月号」より
 
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
                 
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